バレットジャーナル、稠密な文章、文学
「ギルドてすさび vol.2」で有村行人は、バレットジャーナルを取り上げている。
バレットジャーナルはノート術・手帳術のひとつ。
では、文学フリマに出す冊子で、なぜこのようなものを取り上げたのか。
ギルドてすさびでは、書くことが大きなテーマであり、記述についての関心から、とは言える。
しかし、ビジネス技法のようなノート術が、文学フリマと関係があるのか。
バレットジャーナルはライダー・キャロル(Ryder Carol)が創案、Instagramなどのコミュニティで拡がり、世界中に利用者を持つに至っている。
通常の手帳との最大の違いは、ノートに記入様式を手書きで作り、やはり手書きで予定やタスク、週や日々の記録を(もちろん手書きで)つけていくこと。
自分でやりやすいようにやればいいのだから、どのようなノートを使ってもいいし、記入様式も好きに作っていい。
一応、以下のログをとることが支柱になっている。
- フューチャーログ(月次カレンダーに大きな予定を入れるようなもの)
- マンスリーログ(その月の記録を1日1行、また月間タスク一覧)
- デイリーログ(日々の記録。大変なら、週の記録をウィークリーログとしてつける)
しかし、通常の手帳やノートとの最大の違いは、ラピッド・ロギングだろう。
- 箇条書き。
- 書くのはタスクやメモが中心。
- 1行はできるだけ短く簡潔に。
1行が長くなりそうな時は、タイトル行と、インデントされた内容行という形で、箇条書きを構造化する。つまり、複数の箇条書きに分割して記す。1行は長くないが、それなりの行数は費やす形になる。
こういう記述形態をとるため、バレットジャーナルには長い文章は(ほとんど)出てこない。
箇条書きがすべてになると、日記として書くことも事実中心になり、そこで感じたことは(事実とは別に)分割して箇条書きすることになる。
(箇条書きで事実を書いて、感想は箇条書きの下に通常の文章で残す、という手もある。ただし、ジャーナルとしての基本は箇条書きであり、文章はあくまでそこに書ききれない何かを記すため。)
デイリーの記述といえば、ほぼ日手帳、EDIT、フランクリンプランナーといったデイリーページを持つ手帳、あるいは厚いノートで日記をつけている人もそれなりにいる。
そこでは、イラストや文章を書くことが中心になる。書き手が心動かされた何かが主役になる。
一方、バレットジャーナルでは無味乾燥な箇条書きこそが主役になる。それを守るために、ラピッド・ロギングを強く推奨するようにさえ見える。
この違いは、書き手の意識になんらかの変化をもたらすのではないか。そのことは、密な文章として書くべきことではないか。
たとえば、三島由紀夫のように(後世に読まれることを意識した)稠密な日記もあれば、江戸川乱歩のように箇条書きも取り混ぜつつ、自身の発想を整理するメモを含めた日記もある。こうした違いは、自ずと選ぶテーマ、文体と関係してくるのではないか。いや、これは極端な例だが、もっと普通の人でも、毎日書く内容が変わってくれば、意識にもなんらかの影響はあるのではないか。
そんな発想から生まれた短編が「バレットジャーナルで撃ち抜かれる心臓」。
とはいえ、本来は気楽に読んでいただくための短編であり、思考実験として充実した重さを提示するような形態でもない。
少しでも気になるなら、ぜひお立ち寄りを。
1月19日の文学フリマ京都でお待ちしております。